Statement
「真を写すとは何か?」──“写真 (shashin)”という言葉の語源に触発され、小林健太はこの根源的な問いを幼少期から探求し続けてきた。プリクラや90年代のデジタルお絵描きソフト「KID PIX」で培われた、撮影と編集が一体化した遊びの感覚は、小林の制作の出発点である。
彼の作品において「真実」とは、再現可能な写実性ではなく、素材、身体、記憶、ノイズ、コラボレーションが絡み合い、常に変化し続ける流動的な構造を意味する。Photoshopの指先ツール(smudge)を用いた《#smudge》シリーズでは、写真のピクセルを色彩の流れに変え、「編集行為そのもの」を表現として前面に打ち出している。また、東京の都市風景を断片化して再構成する《Tokyo Débris》、割れた鏡の乱反射をCGと融合させた《Broken Mirrors》など、多様な素材とメディアを駆使しながら、視覚的イメージと身体的ジェスチャーの境界を探求している。
写真、CG、立体、映像、インスタレーション、パフォーマンス、ファッションを横断し、「作る身体」と「見る身体」を循環させながら、小林は意味が解体された後に像がいかにして新たな生命を得るかを模索している。
CV
Born 1992, Kanagawa, JP | Based in Tokyo / Shonan
— Solo Exhibitions (selected)
2022 “EDGE,” agnès b. galerie boutique, Tokyo, JP
“THE PAST EXISTS,” Mitsukoshi Contemporary Gallery, Tokyo, JP
“Tokyo Débris,” WAITINGROOM, Tokyo, JP
2021 “#smudge,” ANB Tokyo, Tokyo, JP
2017 “Insectautomobilogy / What is an Aesthetic?,” G/P Gallery, Tokyo, JP
— Group Exhibitions (selected)
2025 “AI / POST PHOTO,” Art Golden Gai, Tokyo, JP
2024 “HYPER_IMAGE_SCAPE,” Ulsan Art Museum, Ulsan, KR
2023 “Photo2021: The Truth,” Centre for Contemporary Photography, Melbourne, AU
2022 “COMING OF AGE,” Fondation Louis Vuitton, Paris, FR
2021 Unseen Amsterdam, Amsterdam, NL
2019 Arte Fiera, Bologna, IT
2018 “BRAVE NEW WORLD,” Seoul Photo Festival, Seoul, KR
Breda Photo Festival, Breda, NL
Hello World — For the Post‑Human Age, Art Tower Mito, JP
2017 Guangzhou Image Triennial, Guangdong Museum of Art, Guangzhou, CN
FORMAT International Photography Festival, Derby, UK
2016 “GIVE ME YESTERDAY,” Fondazione Prada Osservatorio, Milan, IT
2015 Photo London, Somerset House, London, UK
Jimei×Arles International Photo Festival, Xiamen, CN
Noorderlicht PhotoGallery, Groningen, NL
— Commissions / Collaborations (selected)
2022 Adidas “Kenta Cobayashi × adidas SPORTSWEAR”, JP
2020 Dunhill SS‑2020 campaign (Dir. Mark Weston), London, UK
2019 Louis Vuitton Men FW‑2019 campaign (Dir. Virgil Abloh), Paris, FR
— Performances (as “#VISUALINERTIA” & others)
2022 Fondation Louis Vuitton, Paris
2020 Little Big Man Gallery, LA
2017 Unseen Amsterdam
2016 Tate Modern, London
— Publications / Artist Books (selected)
2022 “untitled sky” (self-published); “The Past Exists” (Newfave)
2020 “Everything_2” (Newfave); “BROKEN MIRRORS” (artbeat publishers)
2016 “Everything_1” (Newfave) + 15 self‑published zines 2014–22
— Collections
Asian Art Museum, San Francisco, US
Amana Collection; Takahashi Collection, Tokyo, JP
Tokyo Before/After, The Japan Foundation, JP
— Awards
2015 Tokyo Frontline Photo Award — Grand Prize
Biography
小林健太(1992年)は東京と神奈川を拠点に活動するアーティスト。90年代、家庭にあったMacintoshに触れ、プリクラやKID PIXなどのGUI環境で育った小林は、自身を「GUIネイティブ」と定義し、写真とデジタル編集を通じて「真を写すとは何か?」という問いを探求してきた。
代表作《#smudge》シリーズでは、Photoshopの指先ツールで写真のピクセルを引き延ばし、「編集行為そのもの」を視覚表現として確立。この手法をCG、彫刻、映像、インスタレーションなど多様なメディアに拡張し、都市イメージやデジタル環境における記憶の流動性を探求している。
20代前半を東京・渋谷のアーティストコミュニティで過ごし、20代後半から現在まで神奈川・湘南のコミュニティを拠点に活動。キャリアの出発点となったZINE制作では、写真を撮るだけでなく「編集し、交換し、流通させる」ことに重点を置いてきた。その過程には、コピー機から漂うインクの匂いや、紙を折り綴じる身体的な感覚が静かに染み付いている。
現在は世代や領域を超えたコラボレーションを多数展開しつつ、GUIネイティブ世代とAIネイティブ世代との感覚や態度の橋渡しを模索している。
“Tokyo Débris” WAITINGROOM, Tokyo (2022)
Tokyo Débrisは、東京オリンピック後の都市景観を題材にしたシリーズである。《#smudge》で用いたピクセルを引き延ばす手法を発展させ、都市の記憶やデジタル空間の残骸をCGコラージュや立体作品として再構築した。
床面を覆うフォトビニールのミューラル、角度をつけて星型にカットされたアクリルレリーフ、NFTの映像ループ、HDRライティングによるCG作品《Broken Mirror》などを展示空間で相互に反射させ、物理的な要素と仮想的なイメージが交錯する視覚的体験を生み出した。観客はこの空間内で、都市が持つ表面的な矛盾や破片化した記憶の中を没入的に漂うこととなる。
“#smudge” ANB Tokyo, Tokyo (2021)
「ピクセルの色情報を引き延ばすと写真の意味はどのように変化するのか?」──この問いを起点に展開される《#smudge》は、Photoshopの指先ツールを使った編集行為そのものを主題化したシリーズである。2014年のZINE制作を起源に、壁画、映像、レンチキュラー、金属レリーフへとメディアを拡張してきた。
幅12mに及ぶ巨大なプリント壁画、折り曲げられた金属板に印刷された《Relief: Brushstrokes》、マウス操作を映像化した《#video》、編集操作を音響として表現するパフォーマンス《Sound & Vision》や《#VISUALINERTIA》など、多彩な手法で視覚、触覚、聴覚を横断的に融合させ、色彩の流動性が観客を包み込む空間を創出した。
“Hello World—For the Post-Human Age” ART TOWER MITO, Mito ( 2018)
情報テクノロジーが人間の知覚や身体感覚を変容させるポスト・ヒューマン時代において、芸術はどのような役割を果たし得るのか──。マーシャル・マクルーハンのメディア理論を出発点に、ヒト・シュタイエル、セシル・B・エヴァンス、エキソニモらと共に開催された本展で、小林健太はデジタルネイティブ世代の視点からこの問いに応答した。
小林は、デジタル画像の色彩を引き延ばす《#smudge》シリーズ、編集行為を映像化した《#video》、プリンタをハックして操作音を音響として提示したパフォーマンス《Sound & Vision》など、多様な作品を横断的に展開。身体とテクノロジーのあいだに生じる摩擦と共鳴を視覚化し、観客の知覚を揺さぶる空間を構築した。
これらの作品群は、小林が初期に展開したブログ『Everything』や同名の写真集シリーズが持つ、インターネット的な雑多さへのノスタルジーを背景としている。「Everything」という言葉は、高校時代に愛読したSF小説『銀河ヒッチハイク・ガイド』の問い「人生、宇宙、その他すべて(Everything)の答えは?」に由来しており、本展は日常的なデジタル経験を、より根源的でSF的な問いへと接続する試みでもあった。